ペット徒然

ペットについてのあれこれを、気の赴くままに綴ってみようと思います。

猫、増加。

 こうして始まった私と野良猫たちとの、ささやかな触れ合い。

 それは、次第にふくらんでいった。

 最初は、白黒猫の親子二匹。「陸のがあがあ」に餌をやっていたら、フェンスの向こう側に、白黒模様の親子猫が何時の間にやらやって来ていたのだ。白黒な子猫は、それこそ物欲しそうに、羨ましげに「陸のがあがあ」を見ている。

『ねえ、お母さん、行ってきていい?』

 窺うようにして、ちょろちょろとフェンスから出て来かけるが、

『駄目!』

 母親らしい、大人猫が子猫を引き留める。叱られたらしい子猫はいったん母猫の傍に戻るが、

『ねえ、食べたいよ! いいでしょ?』

 と、またそろそろと出て来かける。

『駄目って言ったでしょ!』

 母猫が怒る。これの繰り返し。

 その母猫は、なかなか精悍な様子をしていて、

『猫って虎と同種族やったねえ』

 と、思わず私が夫に言ってしまったほど。

 百獣の王とはいうが、動物園で見るライオンというのは、どうも怠惰な風情で柄も小さく、そんなに立派には見えない。しかし、虎の方は正直、これぞ百獣の王といった勢い。しなやかな、事あれば今にも飛びかからんとする獰猛さを滲ませながら、悠然と檻の中に坐している。

 そんな虎の、優美な逞しさをそのまま写し取ったような姿。子連れでなければ、間違いなく雄だと思い込んでいただろう。しかし、二匹のやり取りはまさしく母親と、まだ無邪気で世間知らずな幼い子どもとのそれだった。

 あんまり可愛くて、私と夫は、その母子分のキャットフードを、そっとフェンスの向こう側に手を伸ばし、置いてやった。

 これで、二組目。「親白黒」と「子白黒」(この名づけに、夫はまたしても「ほんまに安易やな!」と笑っていた)の登場だった。

 似たような形で、交流する猫たちはだんだんに増えていった。

 今にして思えば、長閑な時代だった。近所に、まだ人家が少なかったのも幸いだったのかもしれない。今は、

「野良猫に餌をやらないでください、ご近所の迷惑になります」

 と、宣伝カーが街角を巡回するようになってしまっているが……。当時は、私たち以外にも私たちのように、公園で野良猫たちにご飯をやる人たちが多かった。互いに連携する訳ではなく、みんな、好き勝手に名前をつけて、贔屓の猫を可愛がっていた。

 私たちが「(元祖)クロ」と呼んでいた真っ黒猫。ご近所の若い専業主婦さんは、この子を「ボス」と呼んでいたようだ。

 この「(元祖)クロ」は、恐らくかつては人間に飼われていたのだろう。恐ろしく人懐っこい子だった。与えた餌を食べるのもそこそこに、飛び出して来て私や夫の足元にまとわりつき、

『撫でて!』

 とばかりに、ひっくり返ってお腹を出す。

『そうかそうか』

 夫は嬉しそうにお腹を撫でてやるが、私は最初、さすがに触れるのは気持ちが悪かった。

 私の前でもころんとするので、

『ちょっと、撫でてやって』

 夫を呼んで、代わりに撫でてもらったが……。もちろん、それはそれで嬉しそうに撫でてもらうのだが、「(元祖)クロ」は、それだけでは断固承知しない。夫に一通り撫でられて満足そうにした後、

『じゃあ撫でて、撫でて!』

 と、やっぱり私の前にやって来て、ころんとする。

 仕方がないので、恐る恐る撫でた。たらん、と伸びた時の兎のお腹に似ていて、それよりもっと柔らかい感じがした。暖かい。

おお可愛いと驚いたが、舐められると舌はざらざらで、棘が生えていて、やっぱりちょっと不気味だった。兎の舌はくちゅっと小さくて、なめらかで暖かい。咬まれると血が出るくらい前歯は凄いし、抱かれるのを嫌がって腕を蹴るときの後ろ爪の威力も、皮膚の引き裂けるぐらい凄まじいのだが。

 それはさておき、そういう『撫でて』な甘えん坊の、丸い目があどけない「(元祖)クロ」が「ボス」? 似合わないなあと思っていたが、ある日曜日、偶々通りがかって「(元祖)クロ」(らしき猫)を見かけたときは、正直驚いた。

 明るい陽射しのなかで見る「(元祖)クロ」は、それこそなかなか精悍な様子で、そしてかなり凄味のある目をしていた。まさに「ボス」! 

 猫は明るい中では瞳孔が細くなるので、かなり形相が変わるようだ。主に仕事帰り、暗くなってから猫たちに会う私たちと、恐らくは昼間に会う人たちとでは、猫に対する印象も異なるらしかった。

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